Japanese Short Story

Japanese Short Story 64

(嬉うれしいこと)と(嫌いやなこと)たち (嬉しいこと)たちは、(嫌なこと)たちと一緒に暮らしていましたが、力が弱いので、(嫌なこと)たちに追い出されてしまいました。(嬉しいこと)たちはしかたなく、天に登りました。そして、天にいるゼウスの神に、「これから先、人間たちと、どうやってお付き合いしたら良いでしょう?」と、尋ねました。するとゼウスは、「みんながいっぺんに行くと、また、(嫌なこと)たちに追い出されてしまうから、1人ずつ行くが良い」と、言いました。こうして(嫌なこと)たちは、人間のそばにずっと住んでいるので、ひっきりなしに人間に襲いかかるのに、(嬉しいこと)は、1人ずつ天から降りて来なければならないので、たまにしか人間を訪ねてくれなくなりました。 このお話は、(嬉しいこと)は待っていてもなかなか来ないのに、(嫌なこと)は、なぜよく来るのかを説明しています。 Vocabulary List: With Furigana: (嬉うれしいこと)たちは、(嫌いやなこと)たちと一緒いっしょに暮くらしていましたが、 力ちからが弱よわいので、(嫌いやなこと)たちに追おい出だされてしまいました。 (嬉うれしいこと)たちはしかたなく、天てんに登のぼりました。 そして、天てんにいるゼウスの神かみに、 「これから先さき、人間にんげんたちと、どうやってお付つき合あいしたら良よいでしょう?」 と、尋たずねました。 するとゼウスは、 「みんながいっぺんに行いくと、また、 (嫌いやなこと)たちに追おい出だされてしまうから、1人ひとりずつ行いくが良よい」 と、言いいました。 こうして(嫌いやなこと)たちは、人間にんげんのそばにずっと住すんでいるので、 ひっきりなしに人間にんげんに襲おそいかかるのに、 (嬉うれしいこと)は、1人ひとりずつ天てんから降おりて来こなければならないので、 たまにしか人間にんげんを訪たずねてくれなくなりました。 このお話はなしは、(嬉うれしいこと)は待まっていてもなかなか来こないのに、 (嫌いやなこと)は、なぜよく来くるのかを説明せつめいしています。

Japanese Short Story 63

カラスと白はく鳥ちょう カラスが白鳥を見て、その羽の色を羨ましがりました。あんなに白くなるのは、水で体を洗っているからだと思い、いつもエサを拾っている神殿を離れて、池や川のそばに住むことにしました。ところが、いくら体を洗ってみても羽の色は変わらず、それどころか、神殿にいる時のように食べ物が落ちていないため、とうとう飢えて死んでしまいました。 暮らし方で、生まれつきのものは変わりません。 Vocabulary List: With Furigana: カラスが白はく鳥ちょうを見みて、その羽はねの色いろを羨うらやましがりました。 あんなに白しろくなるのは、水みずで体からだを洗あらっているからだと思おもい、 いつもエサを拾ひろっている神殿しんでんを離はなれて、 池いけや川かわのそばに住すむことにしました。 ところが、いくら体からだを洗あらってみても羽はねの色いろは変かわらず、 それどころか、神殿しんでんにいる時ときのように食たべ物ものが落おちていないため、 とうとう飢うえて死しんでしまいました。 暮くらし方かたで、生うまれつきのものは変かわりません。

Japanese Short Story 62

できないことを約束やくそくする男おとこ 貧乏な男が、病気になって苦しんでいました。お医者たちは、「もう、治る見込みはない」と、言いました。そこで、男は神さまに助けてもらおうとして、「わたくしを元気にしてくださったら、百匹のけだものと、その他のお供え物をたくさん差し上げますから、どうか治してください」と、お祈りしました。その時、すぐそばにいたおかみさんはびっくりして、「いったいあんたは、そんなことをするお金をどこで見つけてくるつもりなの?!」と、聞きました。すると男は、「何言っているんだ。俺は病気が治りさえすればいいんだ。神さまがお供え物を取り立てに来るかどうかなんて、知ったことじゃない」と、答えました。このお話は、人間は果たすつもりのない約束を、口先だけならいくらでもするということを教えています。 Vocabulary List: With Furigana: 貧乏びんぼうな男おとこが、病びょう気きになって苦くるしんでいました。 お医い者しゃたちは、「もう、治なおる見込みこみはない」と、言いいました。 そこで、男おとこは神かみさまに助たすけてもらおうとして、 「わたくしを元げん気きにしてくださったら、百ひゃっ匹ぴきのけだものと、 その他ほかのお供そえ物ものをたくさん差さし上あげますから、 どうか治なおしてください」と、お祈いのりしました。 その時とき、すぐそばにいたおかみさんはびっくりして、 「いったいあんたは、そんなことをするお金かねをどこで見みつけてくるつもりなの?!」と、聞ききました。 すると男おとこは、 「何なに言いっているんだ。俺おれは病びょう気きが治なおりさえすればいいんだ。 神かみさまがお供そえ物ものを取とり立たてに来くるかどうかなんて、知しったことじゃない」 と、答こたえました。 このお話はなしは、人間にんげんは果はたすつもりのない約束やくそくを、 口先くちさきだけならいくらでもするということを教おしえています。

Japanese Short Story 61

お百姓ひゃくしょうと凍こごえたヘビ 寒い冬の日に、お百姓がコチコチに凍えたヘビを見つけました。「おう、おう、かわいそうに」と、お百姓はヘビを拾って、自分のふところに入れて暖めてやりました。すっかり暖まったヘビは、元気になったとたんに、ヘビの正体を現して、この恩人にガブリと噛みついて殺してしまいました。死にぎわにお百姓は、こう叫びました。「仕方がない、悪人になさけをかけてやった私がバカだった」このお話は、汚い心は、どんなに人からやさしくしてもらっても治らないということを示しています。 Vocabulary List: With Furigana: 寒さむい冬ふゆの日ひに、お百姓ひゃくしょうがコチコチに凍こごえたヘビを見みつけました。 「おう、おう、かわいそうに」と、 お百姓ひゃくしょうはヘビを拾ひろって、自じ分ぶんのふところに入いれて暖あたためてやりました。 すっかり暖あたたまったヘビは、元げん気きになったとたんに、 ヘビの正しょう体たいを現あらわして、この恩人おんじんにガブリと噛かみついて殺ころしてしまいました。 死しにぎわにお百姓ひゃくしょうは、こう叫さけびました。 「仕し方かたがない、悪人あくにんになさけをかけてやった私わたしがバカだった」 このお話はなしは、汚きたない心こころは、 どんなに人ひとからやさしくしてもらっても治なおらないということを示しめしています。

Japanese Short Story 60

金かね持もちと皮かわなめし屋や 金持ちが、皮なめし屋の隣に引っ越してきました。ところが、皮なめしのにおいが、嫌で嫌でたまりません。「あなた、どっかへ引っ越して行ってください」金持ちは毎日、皮なめし屋に頼みました。「ええ、引っ越してあげてもいいですよ。そのうちに、越します」皮なめし屋は、毎日こう言うだけで、なかなか引っ越しませんでした。そのうち金持ちは、皮なめしのにおいにすっかり慣れて、引っ越してくれとうるさく言うのをやめてしまいました。このお話は、嫌なことでも慣れれば、嫌でなくなると教えています。 Vocabulary List: With Furigana: 金かね持もちが、皮かわなめし屋やの隣となりに引ひっ越こしてきました。 ところが、皮かわなめしのにおいが、嫌いやで嫌いやでたまりません。 「あなた、どっかへ引ひっ越こして行いってください」 金かね持もちは毎日まいにち、皮かわなめし屋やに頼たのみました。 「ええ、引ひっ越こしてあげてもいいですよ。そのうちに、越こします」 皮かわなめし屋やは、毎日まいにちこう言いうだけで、なかなか引ひっ越こしませんでした。 そのうち金かね持もちは、皮かわなめしのにおいにすっかり慣なれて、 引ひっ越こしてくれとうるさく言いうのをやめてしまいました。 このお話はなしは、嫌いやなことでも慣なれれば、嫌いやでなくなると教おしえています。

Japanese Short Story 59

旅人たびびととカラス 仕事で旅に出た人たちが、片目のつぶれたカラスに出会いました。みんながそのカラスのほうを見ていると、中の1人が言いました。「旅を続けるのはやめて、引き返そうよ。あのカラスは、僕たちにそういうお告げをするために現れたに違いないから」すると、別の1人が、「あのカラスが、僕たちの身にこれから起こることを予言できるはずはないよ。だってあいつは、自分の片目がつぶれる危険さえ、避けることができなかったのだもの」このように、人間でも、自分自身にかかわることさえわからない人は、他人に忠告する資格はありません。 Vocabulary List: With Furigana: 仕し事ごとで旅たびに出でた人ひとたちが、片かた目めのつぶれたカラスに出会であいました。 みんながそのカラスのほうを見みていると、中なかの1人ひとりが言いいました。 「旅たびを続つづけるのはやめて、引ひき返かえそうよ。 あのカラスは、僕ぼくたちにそういうお告つげをするために現あらわれたに違ちがいないから」 すると、別べつの1人ひとりが、 「あのカラスが、僕ぼくたちの身みにこれから起おこることを予よ言げんできるはずはないよ。 だってあいつは、自じ分ぶんの片かた目めがつぶれる危き険けんさえ、 避さけることができなかったのだもの」 このように、人間にんげんでも、自じ分ぶん自じ身しんにかかわることさえわからない人ひとは、 他た人にんに忠ちゅう告こくする資し格かくはありません。

Japanese Short Story 58

臓物ぞうもつを食たべた子こ供ども ヒツジ飼いたちが野原でヤギを生け贄にして、近所の人たちを招待しました。その中に、子供を連れた貧しい女がいました。生け贄をごちそうにして、みんなで食べているうちに、その子は食べ過ぎて気分が悪くなりました。「お母さん、僕、お腹をもどしそうだよ」と、母親に言いますと、母親は、「もどすのはお前のお腹じゃなくて、お前が食べた臓物ですよ」このお話は、いつもお金を借りてばかりいる人をたとえています。そういう人は借りたお金を自分のものだと思い込み、お金を返す時に自分のお金を取られたように悲しむものです。 Vocabulary List: With Furigana: ヒツジ飼かいたちが野の原はらでヤギを生いけ贄にえにして、 近所きんじょの人ひとたちを招しょう待たいしました。 その中なかに、子こ供どもを連つれた貧まずしい女おんながいました。 生いけ贄にえをごちそうにして、みんなで食たべているうちに、 その子こは食たべ過すぎて気き分ぶんが悪わるくなりました。 「お母かあさん、僕ぼく、お腹なかをもどしそうだよ」 と、母親ははおやに言いいますと、母親ははおやは、 「もどすのはお前まえのお腹なかじゃなくて、お前まえが食たべた臓物ぞうもつですよ」 このお話はなしは、いつもお金かねを借かりてばかりいる人ひとをたとえています。 そういう人ひとは借かりたお金かねを自じ分ぶんのものだと思おもい込こみ、 お金かねを返かえす時ときに自じ分ぶんのお金かねを取とられたように悲かなしむものです。

Japanese Short Story 57

石いしを引ひき上あげた漁りょう師し 漁師たちが、地引き網を引いていました。かなり手ごたえがあるので、「今日は大漁だぞ!」と、みんな喜んでいました。ところが、いざ陸に上げてみると、網の中にはほんの少しの魚しかいません。手ごたえがあったのは、石ころがいっぱい入っていたからです。「こんなひどい話があるものか!」漁師たちは悔しがりましたが、1人の年取った漁師がみんなに言いました。「なあ、みんなクヨクヨするのはやめよう。『喜びは悲しみの兄弟』と、言うじゃないか。さっき喜んだんだから、今度は不愉快な目にあうのは当然だ。でも、次の今度は、いいことがあるよ」世の中は、そんなものです。どんなにいいお天気でも、急に雨が降ることがありますし、その反対もあります。今が不幸だからと言って、落ち込む必要はありません。 Vocabulary List: With Furigana: 漁りょう師したちが、地じ引びき網あみを引ひいていました。 かなり手てごたえがあるので、 「今日きょうは大たい漁りょうだぞ!」と、みんな喜よろこんでいました。 ところが、いざ陸りくに上あげてみると、 網あみの中なかにはほんの少すこしの魚さかなしかいません。 手てごたえがあったのは、石いしころがいっぱい入はいっていたからです。 「こんなひどい話はなしがあるものか!」 漁りょう師したちは悔くやしがりましたが、1人ひとりの年とし取とった漁りょう師しがみんなに言いいました。 「なあ、みんなクヨクヨするのはやめよう。 『喜よろこびは悲かなしみの兄きょう弟だい』と、言いうじゃないか。 さっき喜よろこんだんだから、今こん度どは不ふ愉ゆ快かいな目めにあうのは当然とうぜんだ。 でも、次つぎの今こん度どは、いいことがあるよ」 世よの中なかは、そんなものです。 どんなにいいお天てん気きでも、急きゅうに雨あめが降ふることがありますし、 その反対はんたいもあります。 今いまが不ふ幸こうだからと言いって、落おち込こむ必要ひつようはありません。

Japanese Short Story 56

マグロとイルカ イルカに追われたマグロが、無我夢中で逃げ回っていました。しかし、イルカはどんどん迫ってきて、あわや追いつかれそうになりました。マグロはめくらめっぽうに跳ね上がって、落ちたところは何と陸でした。マグロに続いてイルカも、追いかけてきた勢いで陸に飛び上がってしまいました。マグロは、陸に上がって死にかけているイルカを見て言いました。「私は、死ぬのが悲しくなくなりました。私を殺そうとした嫌なやつも、こうして同じ運命になったのだから」このお話は、自分を不幸にした相手が自分と同じように不幸になると、自分自身の不幸が少しは我慢しやすくなるということを示しています。 Vocabulary List: With Furigana: イルカに追おわれたマグロが、無我むが夢む中ちゅうで逃にげ回まわっていました。 しかし、イルカはどんどん迫せまってきて、あわや追おいつかれそうになりました。 マグロはめくらめっぽうに跳はね上あがって、落おちたところは何なんと陸りくでした。 マグロに続つづいてイルカも、追おいかけてきた勢いきおいで陸りくに飛とび上あがってしまいました。 マグロは、陸りくに上あがって死しにかけているイルカを見みて言いいました。 「私わたしは、死しぬのが悲かなしくなくなりました。 私わたしを殺ころそうとした嫌いやなやつも、こうして同おなじ運命うんめいになったのだから」 このお話はなしは、自じ分ぶんを不ふ幸こうにした相あい手てが自じ分ぶんと同おなじように不ふ幸こうになると、 自じ分ぶん自じ身しんの不ふ幸こうが少すこしは我が慢まんしやすくなるということを示しめしています。

Japanese Short Story 55

近所きんじょに住すむ2に匹ひきのカエル 近所に住む、2匹のカエルがいました。1匹は街道をはずれた深い大きな池を、もう1匹は街道ぞいの水たまりを住みかにしていました。池のカエルは、水たまりのカエルにたびたび言いました。「ねえ、君。こっちのほうが住み心地がいいし、安全だから、こっちへ引っ越さないか?」しかし、水たまりのカエルは、ちっともその気になりません。「住みなれたところを離れるなんて、僕にはできないよ」と、言うのです。こうやっているうちに水たまりのカエルは、ある日、通りかかった車にひかれて死んでしまいました。人間も同じことです。自分の仕事がつまらないと思いながら、新しいところへ行く勇気のない人は、結局損をするのです。 Vocabulary List: With Furigana: 近所きんじょに住すむ、2に匹ひきのカエルがいました。 1匹いっぴきは街道かいどうをはずれた深ふかい大おおきな池いけを、 もう1匹いっぴきは街道かいどうぞいの水みずたまりを住すみかにしていました。 池いけのカエルは、水みずたまりのカエルにたびたび言いいました。 「ねえ、君きみ。こっちのほうが住すみ心地ごこちがいいし、 安全あんぜんだから、こっちへ引ひっ越こさないか?」 しかし、水みずたまりのカエルは、ちっともその気きになりません。 「住すみなれたところを離はなれるなんて、僕ぼくにはできないよ」 と、言いうのです。 こうやっているうちに水みずたまりのカエルは、 ある日ひ、通とおりかかった車くるまにひかれて死しんでしまいました。 人間にんげんも同おなじことです。 自じ分ぶんの仕し事ごとがつまらないと思おもいながら、 新あたらしいところへ行いく勇ゆう気きのない人ひとは、結けっ局きょく損そんをするのです。